美杉会グループの「介護施設×医療機関の連携」はなぜ成功したのか。
施設間連携にも応用できる、協働可能な連携のかたち
感染管理認定看護師×介護士座談会vol.2

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介護施設×医療機関の連携の成功事例として「美杉会グループ(大阪府枚方市)」の取り組みをお伝えする座談会。後編では、介護士主体で進めてきた感染委員会の活動の具体的な成果や、これから連携を図ろうとしている高齢者施設へのアドバイスなどを語っていただきました。

座談会vol.1はこちら >

座談会参加メンバー(順不同、以下敬称略)

  • 委員長
    三浦太郎氏
    社会福祉法人美郷会
    特別養護老人ホーム 大枝美郷
    介護士長
  • 感染管理認定看護師
    三浦利惠子氏
    社会医療法人美杉会
    佐藤病院 医療安全管理室 師長
    ※2025年1月時点の肩書。
  • 副委員長
    真鍋賢二氏
    社会福祉法人美郷会
    有料老人ホーム 美華 施設長
  • 副委員長
    森田真人氏
    社会福祉法人美郷会
    特別養護老人ホーム かたの美来
    介護主任

新型コロナ対応に生かされた委員会活動
自作の初動マニュアルや情報共有システムが大活躍!

情報共有システムにしてもマニュアル制作にしても、一つひとつ高齢者施設用にカスタマイズしていくというのは、普段の業務がある中で大変だったと思うのです。なぜ継続してこられたのでしょうか。

委員会を任されて、いろいろなことに着手していくのが、ただただ面白かったですね。「どうやったらみんなに伝わるかな」と考えたり工夫したりするのが楽しくて、辞めたいと思ったことはなかったです。

三浦委員長はパワーポイントの資料作成が上手い、真鍋さんはコツコツとデータをグラフ化してくれて、職員全員分の抗体カードも作ってくれました。森田さんは、事例発生時の初動手順書を作ってくれたりと、それぞれが得意分野を発揮してくれています。私が「こんなことを行いたい」と呟くと、動いてくれるんです。

僕自身は、他の施設で何か起きたら協力したい、自分が力になれたらという気持ち。それに利用者さんには安心に過ごしてもらいたいという気持ちが糧になっていますね。仲間がいたことも継続する力になりました。三浦委員長や真鍋副委員長、三浦師長に相談しながら一つひとつ対処してきたことで、委員としての自信もついたと思います。

委員会の中心メンバーは、最初は僕だけで、真鍋さん、森田さんが加わって3人体制になり、数年かけてここまできました。情報発信や意識・知識・実践力の底上げを行い、日頃からの感染対策のレベルを上げてはいきましたが、それでも利用者さんが亡くなることはあるんですね。だからこそ「まだまだなんだ」と、奮起してやってこられた部分もあったと思います。

そうですね。課題が見つかるたびにクリアして、挫けそうになっても続けてきたというのが本当のところ。目の前に同僚や利用者さんがいるので、前に進むことができたというのが大きいですね。

「しっかり動けた!」と実感できたのは、新型コロナが到来したときでした。現場はパニックになっているので、冷静に判断できる「旗振り役」がいるってすごく大事なんです。
僕も委員会の人間として、現場に行って陽性者を見て、フルPPEで搬送したりもしました。職員が疲弊していたり人員が不足していたりすれば、現場で得た肌感をもとに対応を考えるとか、的確にICTや委員長に報告できるような体制も取れました。委員会がICTと高齢者施設の架け橋になれたからこそ、初動から施設内陽性者対応、収束までの支援を止めることなく続けることができましたね。

2020年の時点では、感染対策のさまざまなマニュアルやガイドラインができていました。新型コロナ流行時には医療が逼迫し、施設で陽性者をみなければいけない事態も起こりました。その際には、個人防護具の確認、物品調達などを委員会がサポートするとともに、食堂を陽性者部屋とし、施設内をグリーンゾーン、イエローゾーン、レッドゾーンに分けて対応しました。

簡易マニュアル参考例

コロナ以前から「意識」「知識」「実践力」を強化してきており、感染対策の標準化が図れたことが、現場対応力の飛躍的な向上につながったのだと思います。

僕ら介護士だけではここまで変われませんでした。三浦師長さんをはじめ病院ICTの助けがあって今があります。病院ICTとの連携は「心強さ」や「安心感」につながっています。

これから連携強化を目指す高齢者施設の皆さんへ伝えたいこと

これから病院との連携や施設内(施設間)連携を強化していこうとする施設の皆様へ、取り入れてほしいしくみやアドバイスがあればお聞かせください。

美杉会グループの例でいうと、やはり感染症の事例が発生した際の報告システムと初動システムが確立していることが大きいですね。

そうですね。いざというときに役立つ手順書などの情報ツールが用意されていること、委員会という相談窓口があることが特徴ですね。また、全職種対象に勉強会を実施することも重要です。PPEの着脱方法などは実践を交えながら、とにかく基礎を固めるようにしています。

手指衛生、個人防護具、感染経路別の対策など、やはり基本が身についてこそ初動がうまくいきます。勉強会は1度やればいいというものではなく、毎年行うことが重要。三浦委員長、真鍋副委員長にも協力していただいて全施設を対象に回っています。

私は感染管理認定看護師として、グループ外の施設でも講習会を行うことがありますが、用語が理解できているかいないかだけでも、現場でのコミュニケーションや対応力に大きな差が出ます。そして、高齢者施設のほとんどは職員から感染が拡がるので、職員自ら報告できる職場こそがいい職場だと言えます。例えば職員は、熱が出ている時に「申し訳ない」と思わなくていい、むしろ報告しないとダメですよね。また「利用者さんが下痢しているけど、今日はにおいが違うどうしたらいいか」と看護師に伝えられる環境にあるかどうか。職場を「安心して相談できる・報告できる」風土にしていくことが大事ですね。振り返ってみていただきたいですね。
現在の体制では、委員会に報告さえしたら、その事例は自分だけが抱える問題ではなくなります。直接ケア職の皆さんが感染対策を行う上で、心理的安全性が保たれていることは非常に大切なことだと思います。

各施設から、毎日の発熱や下痢・嘔吐の報告が常に入ってくるシステムをつくって全施設の有症状者数を把握するようにしています。施設に新しく入ってきた職員でも迷わない・困らないように、感染が起きたらどう動くかの手順書(初動マニュアル)も作って初動が大事「指示待ちでなく自ら動くように」と、何度も、何度も発信してきたことが今につながっていると思います。教材にしても手順書や情報ツールにしても、自分たちが使いやすいようにカスタマイズして自作してきたことは強みですね。
出張講義では、アルコールチェッカーを使いながら「ほらここが汚れていますよ」と、実際に見て、感じて、体験して覚えていってもらうように心がけています。繰り返し、繰り返し体で覚えることが大事です。僕らもここまで10年かかりましたから、焦らずじっくり取り組んでほしいです。

今では三浦委員長をリーダーに、
120%任せられる組織になったと思います。男山病院の大西部長から「自分を守れない人は患者さんを守れない」と、ずっと言われてきましたが、この理念がしっかりと浸透している感がありますね。

看護師-介護士間だけではなく、実は施設間でも壁がありました。高齢者施設とひとことでいっても、規模も入居形態もサービスもさまざま。施設ごとのやり方があるし課題があって、違って当たり前。他の施設から色々言われたら面白くないのも当然です。それでも壁をなくせたのは、施設を超えて指導ができる役割として「介護療養部部内認定」という資格を作ってもらえたのが大きいです。

看護師-介護士間だけではなく、実は施設間でも壁がありました。高齢者施設とひとことでいっても、規模も入居形態もサービスもさまざま。施設ごとのやり方があるし課題があって、違って当たり前。他の施設から色々言われたら面白くないのも当然です。それでも壁をなくせたのは、施設を超えて指導ができる役割として「介護療養部部内認定」という資格を作ってもらえたのが大きいです。
僕が最初に取得して、その後真鍋さんと森田さんも取得しました。病院内にはもともと認定制度はありましたが、介護施設にも同様の肩書きができたことで活動しやすくなったと思います。この制度も、参考になるんじゃないかと思います。

僕が最初に取得して、その後真鍋さんと森田さんも取得しました。病院内にはもともと認定制度はありましたが、介護施設にも同様の肩書きができたことで活動しやすくなったと思います。この制度も、参考になるんじゃないかと思います。

施設ごとに感染対策を評価するようなことはしていますか?

評価はしません。今、特養でコロナが発生しているところですが、罹患者が増えてきたら、委員会では途中経過でも感染対策強化の助言をリアルタイムでするようにしています。そして収束したあとは、必ず振り返りをして、次につなげられるような取り組みを事例ごとにやっています。

高齢者施設での感染拡大は、経営にも大きく関わることですよね。事業を止めてしまうと、通ってきている高齢者の方々も困ります。業務の停止をせず経営も守りながら、利用者さんたちの生活も変えずに維持していくのは、これからの課題ですね。新型コロナ流行時には居室対応をしたり、レクをやめたり、看取りの方が家族に会えなかったりしました。それは私たちの後悔の1つなんです。もう少し感染対策をわかっていれば、ちょっと勇気があれば、制限を緩和しながら感染対策を乗り越えられたのではないか。どうしたら制限を少なくできるかを考えながらやっていきたいです。

現場は感染を拡げたくないので、どうしても厳しめな対策になりがちですが、委員会にひと言相談していただけたら、一緒に考えることができますし、現場のプレッシャーを減らすことができます。感染事例は何度もやってくるものなので、逃げ道もあったほうがいい。委員会を作る際には、そうした存在になれるように工夫していただけたらいいのではないかと思います。

こんな時はどうしたら…? 看護師、介護士それぞれの解決アドバイス

上の理解がなくて、物品が十分揃えられない、感染対策が十分にできないんですという相談もありますね。

上(病院や経営母体)の理解を得るためには、実績を作っていくことも大切です。一度には無理でも、地道に交渉していきましょう。何かことが起きた時、チームで動くことで活動しやすくなります。挫けそうになったら、横のつながりのある人とうまく協力しながら、やっていくといいでしょう。
介護施設によっては、必ずしも医療法人とセットになっているとは限りませんよね。その場合には行政でもいいですから、後押しやサポートをしてくれる横のつながりを保ちながら、地域連携のしくみを整えていくといいと思います。

感染対策が重要といっても、いくらでもコストをかけられるわけでなく、さまざまな事情がある中でやっていかなければなりません。だとしてもこれから連携を図っていく皆様、特に組織の上層部にいる方には、どうか現場の意見をよく聞いてほしいです。いろんな側面から物事を見ないと、答えが出ないことも多いです。互いに聞く耳を持って話し合えたら、お互いに相談しやすくなると思います。

看護師さんは指導しないといけないと思っているようですが、そうではなく、飛び込んでいって、現場を知ることはめちゃくちゃ大事です。私も、こうしたらいいとアドバイスしたら、介護士さんたちから「そんなことできない」と言われたことがありました。実際に施設を訪ねてやってみたところ「確かに難しいな」と事情がわかって「じゃあどうしたらよいか」と一緒に考えたことがあります。何かあったらみんなでディスカッションをして考えていくことが、一歩でも前に進むことにつながると思います。

高齢者施設ごとに様々な形態があり、例えばユニット型と従来型(多床室)で同じ対策をしても通用しませんよね。その場合はどうしていますか。

施設が違えば、対策の仕方も、物品の選択も変わります。その微妙な違いは、委員会のメンバーがICNと施設の間に入って、調整しています。例えば利用者さんが発熱したとして、個室がそもそもない施設は逃げ場がないですよね。その場合にはカーテン隔離しようとか、利用者にマスクをつけようといった対策につながっていきます。それがケアハウスの場合には住居性が高いので、制限はかけずに、健康観察の対象者としてしっかりマークする。症状があっても通院したり、買い物に出たりというところは許容しながらやっていくというように、個別に対応しています。

型通りにいかない部分は、話し合いが大事ですね。要介護が多いデイサービスでは、1日で100人の入浴介護を担当するケースもあり、介護士さんの手がすごく荒れるんです。グローブの下にもう一枚濡れないように手袋入れようかとか、現場ごとに工夫する必要があるでしょう。陰部洗浄ボトルが足りなかったら、しっかり洗浄して午前と午後に分けようとか。病院側が頭ごなしに「使い回しは禁止」といったらそれで終わってしまいますよね。そこは現場の声を聞きながら柔軟に対応してほしいと思います。

現場の意見も聞いて、共通認識ができれば連携しやすくなると思います。ケアワーカーを含めた感染委員会を作る場合には、同じ職種の仲間が複数名いると心強いと思うので検討してみてほしいですね。

委員会の一人として、僕も現場の声をよく聞くようにしています。それができないことには判断が遅くなる、初動も遅くなる。困ったら相談することの積み重ねで課題が見えてきたり、この先どうやっていこうという形が見えてきたりするものです。

そうですね。相手の立場に立って考えるようにすることで、自分にも新しい知識や経験が増えます。自分にも還元され、結果、周りにも、利用者にも還元されるのです。

多様な職種・職員が関わる委員会へ、バトンをつなぎたい

具体的なアドバイスも、ありがとうございました。最後に今後、取り組んでいきたいことやメッセージなどがあればお願いします。

日本の高齢者施設には、技能訓練生や外国人労働者がたくさんいます。当グループでも40名ぐらいは外国人ですから、その人たちを含めた全体の感染管理も考えないといけません。常に新しい人材が入ってくる現場なので、いかに感染対策のレベルをキープするかという点は毎年の課題です。

同感です。これまで積み上げてきた熱量を、人が変わっても同じ水準で維持できるような組織作り、仕組み作りが必要です。多様な職種・職員が感染委員会に関わってくれたほうが、組織としての可能性が広がると思います。そう遠くない未来に、次の人たちにバトンタッチできるような仕組みを作りたいですね。

僕も課題は人材育成だと思います。現状、フルに稼働しているのが三浦委員長と真鍋副委員長と僕だけなので、各施設にスペシャリストがいたら心強いですね。

私たちは「日々の感染対策が命と繋がっていることを私たちは忘れない」をモットーに活動してきました。これからもこの軸は持ち続けていきたいですね。

感染対策と一緒に、その原点となる考え方も後輩に伝えていっていただけたらうれしいですね。「倫理観を大事にして、日ごろから、利用者さんは自分の家族と同じという気持ちで行う。」
私は迷った時にはこの原点に立ち返るようにしています。

この座談会を通して、医療との連携や地域連携を模索している高齢者施設の方々の参考になるたくさんのヒントや考え方を提供していただきました。ありがとうございました。

(聞き手・文:及川夕子/医療ライター)

- Introduction -

社会医療法人美杉会 佐藤病院

美杉会グループ(社会医療法人 美杉会、社会福祉法人 美郷会)は、大阪府枚方市の佐藤病院、八幡市の男山病院という2つの急性期病院を中心に、地域の医療・保健・介護のニーズに応える形で地域に貢献してきた。病院のほかに介護施設、介護保険施設、訪問看護・介護、デイケア・デイサービス、配食サービスなど26施設76事業所を展開している。

(聞き手・文:及川夕子/医療ライター)

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