美杉会グループの
「介護施設×医療機関の連携」は
なぜ成功したのか。
私たちが「ワンチーム」になれた理由
感染管理認定看護師×介護士座談会vol.1

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高齢者施設の感染対策においては、2024年度に高齢者施設等感染対策向上加算が新設されたこともあり、医療機関との連携強化を模索している高齢者施設も多いのではないでしょうか。しかし「何から始めていいかわからない」「医療職と介護職の協働がうまくいかない」といった悩みを抱える施設も少なくありません。今回は、介護施設×医療機関の連携の成功事例として「美杉会グループ(大阪府枚方市)」の取り組みを紹介します。病院と高齢者施設、看護師と介護士の協働・連携体制を作り上げてきた背景には、どのような苦労や工夫があったのか。感染委員会のメンバーである感染管理認定看護師や介護士の皆さんに、聞きました。その模様を全2回にわたりお伝えします。

座談会参加メンバー(順不同、以下敬称略)

  • 委員長
    三浦太郎氏
    社会福祉法人美郷会
    特別養護老人ホーム 大枝美郷
    介護士長
  • 感染管理認定看護師
    三浦利惠子氏
    社会医療法人美杉会
    佐藤病院 医療安全管理室 師長
    ※2025年1月時点の肩書。
  • 副委員長
    真鍋賢二氏
    社会福祉法人美郷会
    有料老人ホーム 美華 施設長
  • 副委員長
    森田真人氏
    社会福祉法人美郷会
    特別養護老人ホーム かたの美来
    介護主任

なぜ伝わらない?うまくいかない?
介護士さん主体の委員会を作ったことが扉を開くカギに

美杉会グループはたくさんの高齢者施設を抱えながら、介護施設×医療機関の連携が非常にうまくいっていると伺っています。その秘訣はどこにありますか?

当グループには26施設76事業所というたくさんの高齢者施設がありますので、感染管理マネジメントは本当に大変でした。どうやって乗り越えてきたかというと、2013年4月に介護士主体の感染委員会を設立して、直接ケア職(介護士)の委員が中心となって活動してきたことが大きいです。現在は、施設看護師と介護士それぞれの感染委員会が合体し1つの大きな委員会となって、法人ICT(以下、ICT)と連携をとりながら、問題があれば一緒に考えるという姿勢で運営しています。
感染対策は初動が肝心ですから、現場職員が自立して動ける体制があるのとないのでは大きく違います。私たちは早くから連携を進めてきたおかげで、新型コロナ流行時には委員会が大活躍しました。施設看護師と介護士の協力体制が取れる組織というのは、とても強いです。

2013年に介護士主体の委員会を作られたのですね。当時、病院と施設との連携を進めるにあたってどのような苦労や工夫があったのかお聞かせください。

美杉会には佐藤病院と男山病院にICTがあり、高齢者施設の主な担当は佐藤病院となっています。私はそこで感染管理専従看護師として勤務していました。当初は、ICTと施設看護師の感染委員会があり、勉強会の実施や相談等で連携を図っていました。事例発生時には施設看護師からICTへ報告、その後、ICTから対応指示が来て、施設看護師から現場(介護士)に伝えるという指示系統になっていました。
しかし、この体制ではいろいろと問題がありました。感染対策は初動が非常に重要であるにもかかわらず、現場は指示待ちの状態になってしまうこと、また介護士が看護師をあまり良く思っていないという悩みも抱えていました。看護師から「一緒にやりましょう」と声をかけてもなかなかついてきてくれない、耳を貸してくれないという状況でした。

要は仲が悪かったということなんです。当時の僕らは、感染対策がなぜ必要なのかも、感染対策の用語の意味もわかっていませんでした。看護師さんからはどうも上から目線で言われているように感じるし、「こんなことも知らないの?」と言われたくないから知っているふりをしてしまう。「利用者さんのことを一番わかっているのは現場なのに、なぜ一方的にルールを押し付けてくるのか」という反発もあったのだと思います。

皆さんの心のドアをこじ開けようとして、何度も閉められましたね。とはいえ、美杉会の事業のうち介護は非常に大きい部分であり、介護士さんたちの協力が欠かせません。直接ケア職種に近い人がリーダーになるのが一番だろうと考え、発足したのが「ケアワーカー(CW)感染管理リンクスタッフ委員会」でした。

僕は、半ば強引に委員会に引き込まれました。感染管理ベストプラクティス研究会のセミナーにいく予定だった人が行けなくなって、たまたま僕が代わりに受講することになったんです。1年間を通しての講義でしたが、そこで、ファシリテーターとして参加していた佐藤病院の三浦師長さんと男山病院の大西部長に出会いました。最終日、お二人から「介護でも感染委員会を立ち上げてやっていく必要があるよ」と声をかけられて、今に至ります。

委員会が発足してからは、どのような活動をしてきましたか。

意識が大きく変わるきっかけとなったのが、老健施設で起きた疥癬のアウトブレイクでした。利用者さんから他の利用者さんへと伝播し、結局収束までに5ヵ月間もかかってしまったのです。「これでは利用者さんを守れない」と痛感し、まずは委員会で基礎的な部分から勉強を始めることにしました。月1回の三浦師長による講義を2年間みっちり受けて、具体的には感染が成立するための3要素、標準予防策、手指衛生、個人防護具の着脱など、基本中の基本を何度も叩き込まれました。

感染対策WEBセミナー資料

出前講座として各施設での勉強会や、施設訪問ラウンドも行いましたよね。

用語の意味がわかるようになると看護師との意思疎通もうまくいくようになり、そのうち水平伝播を防げたケースも出てきました。委員会活動を2年間続けたところで、三浦師長から「これからはあなた自身が講義をする側になって」と提案され、独り立ちをしたというか、教える側に回ったんです。

三浦(太郎)君は、資料作りも発表もとても上手なので、「時期が来たら彼に任せよう」と心に決めていました(笑)。2年間一緒に取り組むうちに、介護士さんは利用者さんを守りたいという気持ちが強く、利用者さんを守るためなら意欲的に取り組んでくれることはわかっていましたから。

講義の進め方や要点は三浦師長から盗んで、それを僕なりのやり方に落とし込んでいきました。「こういう資料でやりたいんだけどどう?」と、三浦師長には何度も相談しましたよね。そのうち、だんだんと楽しくなっていきました。

今、委員会の副委員長として参加させてもらっているんですが、もともとは三浦介護士長の出前講座がきっかけです。話を聞くうちに引き込まれて、自分ももっと学びたいと思うようになって、今がありますね。

同じ感染症発生の場面を伝える場合でも、同じ職種の方が説明した方がシチュエーションを想像しやすいですし、思いが伝わります。施設で直接ケア職に就く方の声をよく聞いて、主体的に関わってもらえるようになることが、連携を前に進めるためのカギだったと思います。

第一目標は「初動から自立して行動できるようになること」
「利用者さんを守る、自分も守る」が合言葉

スタート時には意見の相違から、激しくぶつかることも多かったそうですね。

正直、何度も泣かされました。でも、口に出して言わないと伝わらないので、ぶつかることを避けていては解決しません。対立や言い合いは何度もありましたが、それでも人間関係が壊れることなく続けてこられたのは、少しずつ信頼を積み重ねてきたからで諦めずに進んできて良かったと思います。

疥癬のアウトブレイクを経験してからは、僕ら委員会の意識としてICTの指示待ちでいるのではなく、初動から自立して行動できるようになることが第一目標になりました。だから、方法論で意見の相違はあっても「利用者さんを守る、自分も守る」という感染対策の目的は同じ。僕らも、三浦師長さんも、意見が対立することを恐れなかったし、必要なことだから続けられましたよね。

なんでも言い合える、相談できる環境があることは心強いですね。

ええ。三浦(太郎)委員長のように、リーダーになれる人を増やそうと人材育成にも乗り出しました。真鍋さんや森田さんが加わってくれて。その間にも感染事例は起きていたけれど、以前と違うのは、確実に現場が自立して動けるようになったことですね。

委員会が中心になって解決していくにつれて、「困ったときには委員会に相談すればいい」と、各施設の職員の意識も行動も変わっていきました。

地域に根差した病院ということで、私たちはグループ外の施設からも依頼を受けて勉強会を定期的に行っていました。三浦委員長には、その勉強会の講師を務めてもらい実績を積んでもらいましたね。さらに日本環境感染学会で高齢者施設の感染対策について発表させていただいたり、学会での講演も務めたりしながら、委員会のメンバーは自信をつけていったように思います。

委員会が発足して3年目からは、僕ら主導で事例発生時の簡易マニュアル作り、有症状況報告システム、服薬管理、事例発生時のベッドマップの作成、定点報告の発信(感染症流行状況の把握)、職員に対する4種感染症抗体保有の推進と、現場職員が自ら行動するためのさまざまなツールやガイドラインといったものを整えていきました。その結果、初動が遅いという課題はクリアでき

ベッドマップの作成例

ました。今は介護現場で事例が発生した場合、病院からの指示を待つのではなく介護士と看護師がすぐに対応を実施します。報告系統も、施設看護師からICTに発症と実施報告をし、ICTから対応方法と状況確認を行うというように変わりました。

委員会が発足して3年目からは、僕ら主導で事例発生時の簡易マニュアル作り、有症状況報告システム、服薬管理、事例発生時のベッドマップの作成、定点報告の発信(感染症流行状況の把握)、職員に対する4種感染症抗体保有の推進と、現場職員が自ら行動するためのさまざまなツールやガイドラインといったものを整えていきました。その結果、初動が遅いという課題はクリアできました。今は介護現場で事例が発生した場合、病院からの指示を待つのではなく介護士と看護師がすぐに対応を実施します。報告系統も、施設看護師からICTに発症と実施報告をし、ICTから対応方法と状況確認を行うというように変わりました。

ベッドマップの作成例

ありがとうございます。まずは体制から見直し、直接ケア職の委員会が発足した。そして介護士の皆さんが中心となって施設の感染対策のレベルの底上げを行ってきたことで、スムーズに病院との連携が取れるようになったのですね。第2回は、感染管理リンクスタッフ委員会の活動の成果や、これから連携を図る高齢者施設へのアドバイスなどを詳しく伺っていきます。

座談会vol.2はこちら >

- Introduction -

特別養護老人ホーム 美郷

美杉会グループ(社会医療法人 美杉会、社会福祉法人 美郷会)は、大阪府枚方市の佐藤病院、八幡市の男山病院という2つの急性期病院を中心に、地域の医療・保健・介護のニーズに応える形で地域に貢献してきた。病院のほかに介護施設、介護保険施設、訪問看護・介護、デイケア・デイサービス、配食サービスなど26施設76事業所を展開している。

(聞き手・文:及川夕子/医療ライター)

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