「タテワリ」から「まるごと」へ
高齢者も子どもも職員も、
町ぐるみで取り組む感染対策
- 今金町総合福祉施設としべつ内保健福祉課
- 総務G兼健康づくりG兼地域包括支援センター係長
渋沢 篤憲
私が勤務する北海道・今金町※ は、高齢化率40%の小規模な自治体です。
高齢者の関連施設をはじめ、学校、保育施設、障がい者施設などでの集団感染を防ぐには、①地域全体の感染症情報の共有、②それぞれの立場に応じた知識と技術の習得、③「町内感染対策共通マニュアル」の活用、の3つが必要だと考えます。
これらの実現に向けて2013年、行政が主体となって「今金町感染対策連絡会議(IICLC)」を設置しました。医師から指導と助言を受けながら、町内全17施設が横断的に感染対策に取り組んでいます。
1. 地域全体の感染症情報の共有
町をあげて感染対策に取り組むにためは、各施設のリアルタイムの感染症発生情報を町内で共有しなければなりません。それには今金町の場合、隣町する八雲町のネットワーク(YIC-Net)に加盟する必要がありました。
しかし当初は、加盟に難色を示す施設も少なくありませんでした。
そもそも保育所、学校、高齢者施設などはそれぞれが、行政のたて割り下にあります。たとえ町長をトップにすえたとしても、たて割り下の各施設から賛同を得るのは簡単なことではありません。
そこで、障壁となっていたたて割り構造を利用することにしました。
例えば、学校等の関係施設へのアプローチは、 “町の教育委員会”へ委託するのです。
教育委員会には学校を管理する責任がありますから、その権限を生かす仕組みをつくれば安定的に学校の感染対策に取り組んでもらえると考えたからです。
こうして各施設と顔の見える関係を築いていき、すべての施設から理解を得ることができました。
今金町
感染対策連絡会議
(IICLC)の体制
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会頭
(町長)-
保健福祉課
(主管)- 学校
- 教育委員会
- 保育施設
- 病院
- 障がい者施設
- 高齢者通所
- 高齢者入所
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スーパーバイザー
医師
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副会頭
(副町長・教育長)
2. それぞれの立場に応じた知識と技術の習得
町民それぞれが、自分に必要な感染症の知識と技術を習得してもらえるように、次のような研修会や啓発活動を企画・実施しています。
- <施設職員向けの研修>
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各施設の職員に対しては、一定の知識と技術を早期に定着させる必要があります。
そこで、スーパーバイザーである医師協力のもと、医療者による専門的な講義や嘔吐物処理等の実技研修を継続しています。研修会・実技研修より【嘔吐物処理】
- <高齢者向けの肺炎予防キャンペーン>
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高齢者の肺炎球菌ワクチン定期化に合わせて、2014年から「肺炎予防キャンペーン」を始めました。町内の老人クラブの集会などを活用し、予防接種、誤嚥防止、口腔衛生といった多角的なテーマで啓発活動を続けています。
その結果、1年目に38.5%だった肺炎球菌ワクチン接種率は、3年目には58.5%まで上昇。
今後は国の動向を注視しながら、複数回接種への助成のあり方を検討していく予定です。肺炎予防キャンペーン
- <学校の職員・学生向けの初期教育>
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2015年には、町内の中学校をモデル校に「スクールICT事業」実施しました。
全教員と生徒に、感染症の予防と対策の初期教育を受けてもらい、ワクチン接種や手指衛生の実習も行いました。
同校のインフルエンザ罹患率は、実施前のシーズンが29.0%、実施後には5.6%へ減少し、学級・学年閉鎖ゼロを果たすことができました。
これがスクールICT事業の効果によるものなのかについては、これから検証する必要があります。スクールICT事業
3.「町内感染対策共通マニュアル」の活用
平常時や感染症発生時にすべき標準的な感染対策手法の明示した「町内感染対策共通マニュアル」を医師監修のもとで作成し、全施設で活用しています。
情報量は必要最小限にしぼり、専門用語を統一。内容の見直しも定期的にして、現場で使いやすいように工夫しています。
各施設はこうした共通マニュアルがあることで、施設利用者に町内統一ルールを示すこともできるため、例えば登園制限などの際に理解を得られやすい、といった声も聞かれます。
今金町ではIICLCで培ってきたこれらの経験をいかし、今後も町一体となって感染対策を進めていきます。
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今金町感染対策共通マニュアル
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共通マニュアル掲載の一般向け啓発チラシ
※今金町ってどんな町?
- ・北海道の南に位置する人口約5,500人、高齢化率40%の町。
- ・隣接する八雲町の2次医療圏。
- ・2013年に公的感染対策組織「今金町感染対策連絡会議(IICLC)」を設立し、町をあげて感染対策を行っている。