入所者に
寄り添う
感染対策を重視
- 社会福祉法人 八海福祉会
- 特別養護老人ホーム 雪椿の里
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- 看護師
- 桜井和美
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- 介護係長
- 山田秀樹
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- 管理栄養士
- 小泉奈緒
雄大な八海山の麓に美しい田園風景が広がる新潟県南魚沼市。この自然豊かな地に建つ特別養護老人ホーム 雪椿の里では、感染対策委員会と3名の感染予防対策リーダー※が中心となって、感染予防と拡大防止に取り組んでいます。個室・ユニットケアを特徴とする同施設で成果を上げている取り組みについて、職員の皆さんに伺いました。※『感染予防対策リーダー』とは、
南魚沼地区で実施している感染予防対策プログラム(計5回)に参加し、修了した方のこと。感染対策に関しての正しい情報を持ち、自施設の他の職員へ広げていく役割を担っています。感染予防対策プログラムに関する詳細はこちら
手指衛生の遵守に向けて
「一行為一手洗い」を呼びかけています
- ー施設の特徴と日頃行っている感染予防対策について教えてください。
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当施設は定員70名。入所および短期入所においては、ユニット型(9ユニット)および個室対応をしており、比較的感染対策に適した環境になっています。南魚沼市の感染予防対策リーダー研修を受けたスタッフが3名、そのほか、多職種で組織した感染対策委員会を設置し、毎月会議をして感染対策についての意見交換や見直しなどを行っています。
取り組みを強化したきっかけは、開所した2012年に、ノロウイルスの発症やインフルエンザの二次感染が起きたことでした。以来、感染経路の確認や手指衛生・個人防護具の着用といった標準予防策の徹底を行ってきました。その後、感染拡大は起きておらず、引き続き対策を行っているところです。
私と小泉さんは南魚沼地区の南魚沼地区感染予防対策リーダー研修を受けており、研修で学んだ知識や実技を施設に持ち帰って、現場で周知徹底する活動も行っています。
- ー職員の皆さんが行っている具体的な感染対策とはどのようなものですか?
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手指衛生については、「一行為一手洗い」の徹底を呼びかけており、介護や介助の前後、手すりに触れるときなどには必ず手指消毒を行うよう指導しています。こまめにアルコール消毒ができるように、擦式手指消毒薬を施設の各所に設置しています。
病原菌は、外から持ち込まれる可能性もありますので、職員玄関では、流水と石けんによる手洗いの徹底を呼びかけています。
それでも、やはり忘れてしまう人は出てきます。
ですから、周知徹底は常に課題ですね。対策としては、感染予防対策リーダーが、洗面所に手製のポスターを掲出。イラストを入れたり、替え歌で手洗い手順を紹介したりと、ポスターの内容をこまめに変えているんです。手洗いを忘れないように、みんなに意識してもらうためです。そのほか、スタッフ本人および同居家族に何か体調の変化があった場合には、「体調不良報告書」の提出を義務付けています。感染源を持ち込まないために必要ですし、実際に何か起きたときに感染経路や原因を追っていくのにも役立ちます。インフルエンザなど感染の疑い・危険性がある職員は、治るまで自宅待機ということになります。
熱があっても、各自の判断ですとこれくらいなら出社しようと思う職員も出てきます。ですから、まずは上司に相談をし、状況に応じて医療機関を受診して報告してもらう。こうした確認のプロセスが重要だと考えています。
訪れる人全てに協力してもらえるように、ご家族の面会については、体調不良の方には面接を控えていただいたり、インフルエンザの流行する季節にはマスクの着用をお願いしたりという対策を取っています。
行動を制限しない、不安を与えない
何がリスクかを学び正しく対処する
- ー入所者が感染症にかかったときに、どのような対応をとっていますか?
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基本的には、標準予防策である手指衛生や個人防護服(マスク、エプロンなど)の着用を職員、入所者ともに徹底します。 中には、手に麻痺が残り、自分で手を洗えない方もいらっしゃいます。その場合は、スタッフが食事の前におしぼりで手を拭いたり、消毒用のアルコールを手元に持っていくといった風にサポートをします。
感染に気付いた時点で臨時の感染対策会議を開いて、対応策を検討しています。いつも同じ対策では対応しきれないことがあるためです。
過去に、入所者がインフルエンザにかかったことがありました。本来なら、個室で休んでいただくことが理想です。ですが、その方が認知症だったりすると、本人は感染した自覚がなく、部屋を出て歩き回ることもあるんですね。そうした場合には、感染者が動き回る中でどう感染拡大を防ぐかということが課題になります。実際の対応としては、職員は、感染した人がどういう導線で動くのかということを頭に入れておき、行動範囲を消毒。さらに、食堂やリビングなどの共有スペースでは、感染者を他の入所者から遠ざけるという処置をとりました。インフルエンザの場合、飛沫感染や接触感染でうつるので、咳やくしゃみからの感染を防ぐには、他の入所者と2メートル以上離すことが重要です。また、提携病院の医師に相談して、職員は念のための予防措置として全員タミフルを服用しました。結果、二次感染も感染拡大も起こらずに済みました。
- ー感染症がひとたび起こると、心配になり過剰な対策をとってしまいがちですが、生活空間の中でどう対応するか。入所者に寄り添った感染対策を重視しているのですね。
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はい。ここは老人ホームですから、入所者の皆さんが安心して過ごせるような居住環境を提供することが、私たちの役目です。一人ひとりの職員が感染症に対する正しい知識を持ち、何が危険かを理解して様々なリスクから入居者を守ること。そして同時に、入所者や家族の方に不安を与えないようにすることも大切なのです。そのためにも、基本ルールで対応しきれないときには、職員同士で話し合い、対応が決まったら、職員同士で情報を共有することも大事ですね。
- ー入所者がインフルエンザにかかっていても個室の扉をあえて閉めないようにしていたそうですね。何がリスクなのかと学んできちんと対処するということは、大事なことなのですが、なかなかできるものではありません。
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そうですね。でも、やはり大切なのは、入所者の方々に普段通りの生活を送っていただくこと。扉を開けておいたほうが職員も声かけしやすいですし、目が届きやすいといういい面もありますね。
人が大勢集まる場所では、イレギュラーなケースも多々起こり得ます。感染対策でわからないことが出てきたら、南魚沼市の保健所に相談することも多いですね。親身に話しを聞いてくれ、的確な助言をくださるので、とても助かっています。その助言を元に感染対策を具体的に考え、対処しています。
- ー吐物処理については、職員全員に実技研修を行っているそうですね。
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はい。標準予防策についてのマニュアル活用法の研修を年に1回、ノロウイルスのシーズン前には吐物処理研修を行っています。夜間には、介護職員1名で20人を見ています。一人で対応しなければならないときも慌てずに処理を行うには、手順をきちんと身につけていることが大事なんです。
本当にそう思います。私自身は、南魚沼市のリーダー養成研修で、吐物処理の技術を学びました。実際にやってみると、すぐに習得するのは難しいと感じました。職員全員が感染症の正しい知識を共有し、同じ対応ができるようにするには、実技研修は欠かせません。また、処理の手順を統一するために、
写真入りの手順書を作りました。参照しやすいように、吐物処理に使う道具一式とセットにして置いてあります。
ほかには、県から感染症の週報が出ているので、いつ・どこで・どのような感染症が発生しているのかを掲示板でお知らせするような活動もしています。地道ではありますが、こうした活動を通じて、職員の意識もかなり変わったと感じています。
一人ひとりが意識することで
地域全体の感染予防にも貢献できる
- ー老人ホームは生活の場。そのような環境の中で、どうやって感染を防ぐかということにリーダーをはじめ職員の皆さんが普段から頭を悩ませ、工夫されていることがわかりました。理想的な感染対策とはどのようなものか。今後の課題や展望について教えてください。
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ひとたび感染拡大が起こると、施設の運営自体にも大きな影響が出ますし、入所者の皆さんもとても苦しい思いをします。そういう意味でも、やはり施設での感染予防は普段から意識しておくことが大事だと思います。
一人ひとりが手指衛生などの予防策をきちんと行うことで、大きな感染は起きないと思います。ただ、100%徹底することは難しく、課題はつきません。喉元過ぎれば、ということもありますから、長く感染が起きていない間も油断をせず、意識していくことが大事ではないでしょうか。
ほかには、職員向けの感染対策マニュアルの情報が膨大になり、複雑化してしまって、必要な時に必要な情報が取り出しにくいのではないかと懸念しています。見直しの時期だと思っており、改訂を検討しているところですね。今のところ、通年を通して感染拡大は起きていないことから、一定の成果は出ていると考えています。ひとりの感染者から感染が拡大すると、受け入れる病院も大変になりますので、地域にも貢献できているのかなあと思います。過去には、面会に来た方が面会後にインフルエンザになったという報告があり、ひやっとしたことがありましたが、入居者が発症することもなく済みました。
職員一人ひとりのこまめな予防対策が、功を奏しているのだと思います。デイサービスの利用者様や面会の方への対応などにも気を配りながら、今後も引き続き、感染予防活動を続けていきたいと思っています。
- Introduction -
社会福祉法人 八海福祉会
特別養護老人ホーム 雪椿の里
- 介護係長
- 山田 秀樹(やまだ ひでき)氏
- 看護師(南魚沼地区感染予防対策リーダー)
- 桜井 和美(さくらい かずみ)氏
- 管理栄養士(南魚沼地区感染予防対策リーダー)
- 小泉 奈緒(こいずみ なお)氏

(聞き手・文:及川夕子/医療ライター)