「感染予防対策の
リーダーを養成する」
魚沼地域の
新たな取り組み

新潟県南魚沼地域振興局
健康福祉環境部(南魚沼保健所)
医薬予防課 保健師
山田 知佳
魚沼基幹病院
医療安全管理室看護係長
感染管理認定看護師
目崎 恵
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  3. 「感染予防対策のリーダーを養成する」魚沼地域の新たな取り組み

地域医療の新しい形「地域全体でひとつの病院」を目指す、魚沼基幹病院(新潟県)。
感染対策を地域に広げるために、保健所と連携し、高齢者・障害者施設などで活躍する「感染予防対策リーダー」を養成する取り組みを行っています。
その活動の中心的役割を果たしているのが、同院看護師の目崎恵氏と南魚沼保健所の保健師の山田知佳氏です。具体的な活動内容や目的、そこに込めた想いなどについて伺いました。

人材育成を介護施設でも

「感染予防対策リーダー養成」プログラムについて、まずはこの取り組みを始めた背景からお聞かせください。

私が勤務する魚沼基幹病院には、院内にICT(感染制御チーム)があり、私は感染管理認定看護師として、病院に関わる方すべてを対象に感染管理や院内感染予防の活動を行っています。
その活動の一環として、県内の福祉施設に出向いて、感染対策に関する研修会や講演を行っていました。感染対策は、院内だけで完結するものではなく、地域全体で取り組む必要があるからです。
同時に、「研修をやりっぱなしでよいのか?」「果たして実際の改善活動にまでつなげられているのか?」という疑問を感じていました。そこで保健所の方と色々相談するうちに、「病院にはリンクナースがいるのに、福祉施設にはいないよね」という話になったんです。感染対策のリンクナースは、現場ラウンドにより改善状況をチェックしたり、情報収集をしたり、他のスタッフに感染対策の手順などを指導したりするなど、とても重要な役割を担っています。

リンクナースとは?
専門的知識を持つスペシャリスト看護師と病棟スタッフをつなぐ、コーディネーターの役割を担う看護師のこと、またはその役割を指します。病棟で感染管理に関する情報を収集して、感染管理認定看護師につなぐ感染リンクナースなどがいます。
そこで、介護施設など社会福祉施設にも感染対策活動の中心になるようなリーダーを作ろうと考えたのですね。

そうなんです。介護施設とひとことでいっても、入所系の100人を超えるような介護施設もあれば、15人ぐらいで生活しているグループホームもあり、規模も状況も様々です。入所系施設では居住空間の中での感染対策がメインとなり、団体で生活しているのか個室なのか、トイレも個室か共有かで対策が変わってきます。一方、通所系施設では、外部からの感染源の持ち込みが大きなリスクになります。
感染予防のための対策といっても、病院で行えている感染対策がそのまま介護施設で行えるわけではなく、それぞれの施設にあった対応を考える必要があります。施設ごとの問題やリスクを明らかにして、その問題に対して周囲を巻き込みながら中心となって取り組みを行えるリーダーを作っていくことが重要ではないかと考えました。保健所の方は、福祉施設の状況もよくご存知ですし、施設の選定から研修の案内状送付など、運営面でも助けていただいています。本当に素晴らしい連携ができていると感謝しています。

私は、南魚沼市と湯沢町を管轄する県の保健所で、感染症対策を担当しています。担当地域の社会福祉施設で、同じ感染症が10名以上発症した場合や重症者が出た場合(アウトブレイク時)には、施設から保健所に連絡が来ることになっています。そこで毎回同じ施設から報告が上がり、指導に行くことが何度も重なったりすると、やはり予防的な対策の必要性を強く感じるわけです。施設ごとに感染対策のリーダーを養成することができれば、その人たちが中心となって、自施設の感染対策を主体的に推進していくことができます。保健所としても意見が一致して、目崎さんと共に感染予防対策リーダー研修を実施しています。私は平成30年度から引き継ぎ、重要な活動なので今後も続けていけるように尽力しています。

主体性を重視したプログラム
「自分で考え・実行する力」を
身につける

具体的にはどのようなプログラムなのでしょうか。対象者や活動内容などを教えてください。

対象者は介護施設で働く介護職員や看護職員の皆さんです。研修会のねらいは「標準予防策の考え方を理解し、実践できること」「インフルエンザなどの感染症対策の基礎知識を習得し、的確な対応を実践できること」「研修で得た知識や技術を自施設職員に伝達できること」の3つ。受講者には、約8ヵ月間、全5回の研修に参加していただきます。感染予防の基礎的な知識や技術を学ぶだけでなく、様々な課題にも取り組みます。実施にあたっては、まず、平成28年度は入所系施設職員、平成29年度は通所系施設職員を対象にした2カ年計画としました。
プログラムを作る中で、最も注力したのは、主体的に取り組んでもらうということ。リーダーたちが現場に戻ったとき、活動を継続していける力を身につけていただくことが、最終目標だからです。とはいえ、毎回課題が出されるので、受講者の皆さんは大変だったと思います。

課題とは?どんなことをするのですか。

基本的な研修を行ったうえで、個人で取り組むワークを用意しました。第1回目は「標準予防策①手指衛生」がテーマですが、研修で得た知識や技術をもとに「手指衛生において自施設で問題となっていることは何か?」「それはどうしたら解決できるのか?」を考え行動目標(問題を解決するための計画)を各自が作成します。例えば「自施設で手指衛生をやりやすい環境が整っていない」という問題に対して「使いやすい場所はどこなのか職員の動きを観察し、擦式アルコール製剤をみんなが使えるような環境を作る」という行動目標を上げる等です。そして各自が、次回研修会開催までに、その行動目標に沿って取り組み、「実際の取り組み内容」「取り組んだ結果と今後の課題」をまとめます。この時に「行動目標シート」をツールとして活用します。シートは研修会ごとに提出し、保健所と私とリーダー養成者(研修生)との間で共有していきます。この作業を研修会ごとに繰り返しテーマに沿って行います。どんな小さなことでもいいから、自施設の問題と何ができるのかを考え行動に移し、リーダーが自律していけるようなプログラムにしたかったのです。

最終回は「実践報告会」です。各自施設で感染予防対策にどう取り組んできたか、改善点はどうだったかなどを発表します。パワーポイントやポスターなどを自主制作しての発表なのですが、これがなかなかの力作。苦労した分、得るものはとても大きくて、互いの発表を聴いたり、意見交換をしたりすることで、新たな気づきや改善につながっているようでした。

初年度のエピソードなのですが、全課程修了時には、保健所の課長が修了証書を受講者に手渡します。このとき、課長が涙ぐんでいて。私たちも、胸に込み上げるものがありましたね。

平成28年、29年実施時のプログラムと写真

実際の参加状況はどうでしたか?

全課程を修了できたのは、28年度が30名受講して
21名、29年度が19名受講して12人という結果でした。

インフルエンザの流行時期などには、施設から人を出せないなどの状況はあったと思います。また、課題が多いので、途中でついていけなくなる方もいたのかもしれません。そこは反省点として、受講者がフェードアウトしない様、研修会の際に声掛けしたり、相談に応じたり、一緒に考え支援する体制を作るようにしていきました。

受講者への支援体制も充実させながら、進めているのですね。このリーダー養成研修会は、他の地区にも広がっているそうですね。

はい。29年度からは魚沼管轄でも実施したのですが、29年度は19名中12名が、30年度は16名中16名全員が全課程を修了することができたのです。毎回、受講者にアンケートを取っていますが、プログラムの満足度は、どの回も100%に近い数字です。「つらかった。でも、やり抜いたからこそ学びも、感じたことも多かった」「(学んだことを)これからも継続して行っていきたい」と書いてくださる方が多くて、大変だったかもしれないけれど、課題に取り組んでもらったことには意義があったと感じています。

平成30年度に南魚沼地区で行った、リーダーとなった方向けの「フォローアップ研修」も好評でした。晴れてリーダーになったあとも、「感染対策に対するモチベーションの維持が難しい」「職員全員に(感染予防を)周知させるのは難しい」「リーダー同士で情報交換がしたい」など、様々なご意見・ご要望があってそれに応えた形です。フォローアップ研修には、リーダーの半数以上が参加し、関心の高さが伺えました。このように、研修会パッケージも少しずつバージョンアップし、進化しています。リーダーの皆さんには、各施設での取り組みを継続していただきながら、地域でも活躍していただくことを期待しています。そして、地域の皆さんの感染リスクへの認識が高まり、広く感染予防が根ざしていくことが、私たちの願いですね。

後編「リーダーから広がる感染対策 鍵は、一人ひとりの意識向上」は
近日公開です。

- Introduction -

目崎 恵(めざき めぐみ)

魚沼基幹病院 医療安全管理室看護係長 感染管理認定看護師
同病院で、院内感染対策に従事。
病院に関わる人すべてを対象に活動を行い、
リンクスタッフを育てるなど支援業務にも携わる。
地域での講演活動や感染予防対策リーダーの養成に尽力。

山田 知佳(やまだ ちか)

新潟県南魚沼地域振興局 健康福祉環境部(南魚沼保健所)
医薬予防課 保健師
南魚沼市と湯沢町を管轄する保健所の業務として、感染症対策を担当。魚沼基幹病院と連携し、感染予防対策リーダー養成研修プログラムを実施。各施設との連絡・問い合わせ窓口として、プログラムの運営をサポート。

(聞き手・文:及川夕子/医療ライター)

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