標準予防策の
正しい理解と普及のために

坂総合病院(宮城県塩釜市)
感染制御室 室長
残間 由美子
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約25万人が暮らす、宮城県塩釜市と仙台市東部を診療圏に持つ坂総合病院。
残間由美子氏は、同院の感染制御室で陣頭指揮をとるだけでなく、「宮城ICN(Infection Control Nurses)ネットワーク」を立ち上げ、地域に根差した感染対策活動にも貢献しています。

ネットワーク発足から14年。
これまでを振り返り、地域で感染対策をすすめていくポイントを挙げていただきました。

感染管理を担う看護職が連携して
地域に貢献

宮城ICNネットワークを2005年に立ち上げられたそうですが、まずはその経緯からお聞かせください。

当時、宮城県内の医療機関で感染管理を担当していた看護師の多くは、感染管理の専門教育を受けていたわけではありませんでした。研修会などを通して勉強していましたが、感染症が流行しても専門家に相談できる体制ではありませんでした。そこで、県内の医療、行政、教育機関の看護職が中心となって、感染管理の情報を共有し、知識を広め、技術を習得し、専門家の助言を受けながら活動できるネットワークを立ち上げることになりました。準備には1年ほどかかりました。

最初は有志8人からのスタートだったそうですね。

そうでした。準備を始めた2004年はまだ、手袋をはめずにオムツ交換が行われていたような時代でした。ネットワークの必要性を感じていた宮城県内の感染管理担当の看護師が集まり、まずワーキンググループを結成したのが始まりです。徐々に感染管理認定看護師教育課程を修了したメンバーが増えていき、県内81施設120名以上の会員とともに発足することができました。ワーキンググループのメンバーがネットワーク活動の世話人を務め、事務局の設置は、情報伝達の利便性が高い宮城大学にお願いしました。

現在はどのような活動をなさっているのでしょうか。

講習会を中心に活動しています。情報共有と学習の機会を提供し、演習やグループワークを通して、病院や福祉施設での感染管理の問題点を明確にし、解決策まで考えてもらいます。
また、県内のほとんどの病院とつながっているメーリングリストを使い、感染症の発生状況をリアルタイムで共有し、それをもとにこれから警戒が必要な施設にアラートを出すなどしています。

これまで長く続けてこられた秘訣は何でしょうか。

地域のニーズに合わせて、柔軟に形態を変えてきたことがあります。県内では、医師を中心とした感染制御ネットワークも盛んですので、活動をすすめていくなかで役割のすみわけが必要になってきました。宮城ICNネットワークでは、組織のあり方を定期的に見直して会則を随時変えています。大切にしているのは、地域に貢献する看護師がキャリアアップできて、しかもやりがいを持てる仕組みづくりです。

その取り組みの一つとして、地元の看護協会との連携を始めたところです。看護協会はもともと、地域の診療所で感染対策の研修会を実施していましたから、私たちの目的とも合致します。近年は、看護協会が研修を企画して講師を派遣し、内容は宮城ICNネットワークの感染管理認定看護師が一緒に作り上げていく体制をとっています。研修教材は誰がどこでも使えるように共有しています。

もう一つは、他施設と顔の見える関係を作ってきたことでしょうか。東日本大震災のときにも感じたことですが、日ごろから顔見知りの関係であれば、困ったときの助け合いがスムーズにできます。当院の医師は地域の保育園や高齢者施設の嘱託医を引き受けているので、もし施設で問題が起こればすぐに私がかけつけて感染対策を行います。私自身が高齢者施設や保育園に出向くことで顔がつながると、メールや電話でのやりとりも格段にやりやすくなります。

普段から顔の見える関係を
~東日本大震災の教訓~
「東日本大震災の直後、当院で帝王切開の手術を受けた妊婦さんがいらっしゃいました。震災で浸水した別の病院の患者さんでしたが、その医師が必要な手術道具を持ちだして、顔見知りだった当院の医師を頼って来られたことで実現しました。また、仙台市内でも、滅菌器が震災で壊れてしまった病院が、内陸部の病院に滅菌をお願いする事例がありました。こうした助け合いは、普段から顔の見える関係を築いていたからこそできたのだと思います」(残間氏)

見過ごしやすい問題点

地域での活動を通して見えてきた、感染対策の課題はありますか。
そうですね。例えば、宮城ICネットワークでは、県全体の医療施設の手指消毒薬の使用量を把握していますが、使用量が多い施設だからといって耐性菌が出ないわけではありません。つまり、使用量だけでなく“使い方”が適切かどうかも見ていく必要があるでしょう。
もちろん標準予防策の中で手洗いは最も重要です。しかし、洗うタイミングまでは周知されていない印象もあります。標準予防策という言葉は知られていても、普段の業務でどう実践したらいいか、理解されていないわけです。洗浄の質、消毒の質、滅菌の質まで意識できる職員を増やしていきたいですね。
ただし、強制するのは逆効果です。例えば、携帯用の手指消毒薬剤を医療者が使うのはいいことだと思いますが、義務化すれば反発を招きます。自主的に持ちたくなる雰囲気を作っていくことも私の役目だと思っています。
ほかに気になる問題として、医療施設の構造があります。クリニックなどでよく見かけますが、個室に見えて天井までしきりがない、上部があいた診察室は意外に多いもの。そうした診察室は空気感染を広げる可能性があります。感染の疑いがある患者さんは、壁のある個室で診察するなど工夫されるといいと思います。
ただし、過剰に警戒しすぎもよくありません。例えば近年の高齢者施設では感染対策への意識が高まり、インフルエンザシーズンは面会制限をして家族を施設に入れないことがよくあります。私はそこまでしなくていいと思うのです。面会室を一部屋設ければ解決するのではないでしょうか。感染予防は大切ですが、どう広げないかについては、もっと知恵を絞っていく必要があるように感じます。
最後に、これからどのような活動を目指していきますか。
特にお子さんへの教育は大事です。子どもから親に伝わることで、大人への啓発にもつながりますから。そのために坂総合病院では、手をきちんと洗えるお子さんを増やす教室を15年ほど続けています。これからも継続していきたいですね。
人は、自分のために手を洗うことはできても、他人のために手を洗うことは難しいものです。医療者はもちろん、患者さん、そして健康な一般の方にも正しい手洗いが当たり前のように浸透して、だれもが自然に実践できる状況を作り上げることが理想です。

- Introduction -

残間 由美子(ざんま ゆみこ)
  • 坂総合病院(宮城県塩釜市)感染制御室 室長/感染管理認定看護師
  • 東北大学医療技術短期大学部看護学科卒業、看護師免許取得。
  • 2004年感染管理認定看護師資格取得。
  • 2013年国際医療福祉大学大学院卒業、
  • 看護学修士取得(感染管理・感染看護分野)。
  • 第7回日本感染管理ネットワーク学会学術集会会長。
  • 宮城ICNネットワーク(2005年発足)の立ち上げから関わり地域の感染対策にも従事

(聞き手・文:小川留奈, MPH/医療ライター)

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