地域全体の感染対策の先進的事例
八雲感染対策ネットーワーク
(YIC-Net)の取り組み
- 八雲総合病院 副院長
- 小児科 YIC-Net顧問吉田雅喜先生(聞き手:和田 祐爾)
八雲町は、人口約18,000人の北海道渡島半島の町。その中核病院である八雲総合病院は、感染症の予防と拡散防止を強化するために、2011年から八雲町独自の感染対策ネットワークに取り組んできました。今回はその先進的な取り組みについてご紹介します。
1.八雲総合病院が考える感染対策とはどのようなものですか?
北海道八雲町では、老人施設や保育施設などで、感染症が広がってしまうと、病院のスタッフに対して患者数が一時的に極端に多くなり、キャパオーバーに陥ってしまう可能性が懸念されていました。「地域内の感染症発生状況をリアルタイムに情報共有することで、感染症の拡大を防止できないか」。そんな思いで八雲総合病院小児科の吉田雅喜先生がリーダーシップをとり推進されたのが、八雲感染対策ネットワーク(YIC-Net)です。
導入当初は、YIC-Netからの情報発信のブログひとつをとってみても、担当職員は記事の作り方や伝え方がわからない状態で、最初は戸惑うことも多かったそうです。しかし、YIC-Netの活動により感染症予防の効果が現れ始めると、住民の方に喜んでいただけることが増え、その状況を受けて病院側もますますやる気になるという好循環が起こっていきました。
感染対策ネットワーク
の活動内容
八雲感染対策ネットワーク
(YIC-Net)
今金町感染対策連絡会議
(IICLC)
-
町内共通感染対策
マニュアルの整備 -
肺炎イヤ、イヤッ!
キャンペーン
in 今金 -
スクールICT
プロジェクト
-
キッズセミナー
-
KTT
プロジェクト -
グループウェア
-
手洗い指導者
育成講習
- ■八雲感染対策ネットワーク
(YIC-Net)とは - 2011年に誕生した感染対策ネットワーク。八雲町および同一2次医療圏に属する今金町、せたな町の幼稚園・保育園、高齢者施設、学校、病院、行政などの施設が加盟しています。主な活動としては、住民の関心の高いインフルエンザやノロウイルスをはじめ様々な感染症がいつ・どこで発生したかという情報を八雲総合病院と今金町国保病院が中心となってアップし、加盟施設などが感染症拡大前にスピーディに対策をとれるようにと構築された「グループウェア」、各加盟施設に1~2人、手洗いを学んだ指導者を養成し、その人に施設の手洗い指導をしてもらう「手洗い指導者育成講習」、リンクナースが保育園・幼稚園に赴き、各施設の手洗い場を見たうえで、その施設にあった手洗い方法を子どもたちに指導する「キッズセミナー」、正しい手洗いを覚えた保育園児・幼稚園児が、高齢者に手洗いを教えることで、交流と手洗いの促進を目的とした「KTTプロジェクト」などがあります。
- ■今金町感染対策連絡会議
(IICLC)とは - IICLCはYIC-Netの弟的組織。2013年に設立された町長を会頭とする公的感染対策組織です。主な活動としては、町としての感染対策の統一見解を定めた「町内共通感染対策マニュアルの整備」、町内の高齢者を集めて肺炎球菌ワクチン講演会を開催し肺炎を防ぐ「肺炎イヤ、イヤッ!キャンペーン in 今金」、教育長の協力を得て生徒と教職員に手洗いの重要性やワクチン啓発を講義する「スクール ICT プロジェクト」があります。肺炎予防では、2014年のキャンペーン開始後2015年・2016年の活動の結果、今金町高齢者のワクチン予防接種率は道南各市町でトップに、また、スクール ICT プロジェクトでは学童のインフルエンザり患者数の減少に貢献できました。
2.YIC-Netの導入戦略を教えてください。
最初に始めたのは、八雲総合病院が率先してコーディネーターの役割を担い、加盟施設に働きかけること。加盟施設が比較的身近に集まる八雲町では、コーディネーターが気軽に出向いて講演会を開きやすい環境が功を奏して、一般の方々が興味を持っていただきやすい環境の構築がスムーズに行えました。また、加盟施設にむけて実施した「手洗い指導者育成講習」では、実際に手洗いを学ぶ施設のスタッフだけではなく経営サイドも巻き込み、施設全体として手洗いを推進できるようにしました。
次に行ったのは、加盟施設にYIC-Netは役に立つと認識してもらうことです。YIC-Netのような「グループウェア」は、情報を閲覧するだけで終わらずに、感染症拡大に対しての防止策を各方面で実施してもらうことで初めて機能します。そのため「使ってみたい」と思ってもらうことがとても重要でしたが、最初はYIC-Netのサイトに「ログインできない」「使い方がわからない」という電話を多くいただきました。そこで、PCの苦手な方々に向けたPCの使い方講習会もサポートしました。サポートの実施により、八雲総合病院と今金町国保病院からタイムリーにアップされる情報を有効活用しようと施設側の閲覧頻度も上がっていきました。
3.YIC-Netの今後の展望をどのようにお考えですか?
YIC-Netの主な役割は、「地域の感染症情報のリアルタイムな共有」と「住民に対する感染対策の啓発」です。地域の感染症に関するデータを集め、それを地域の人々に還元することで、感染症が爆発的に流行する前に、行動を促す仕組みです。活動内容は、感染対策の基本といえるものですが、自治体からは「その基本を実行するのが難しい」といった声を聞くこともあります。だからこそ、このYIC-Netを地域の中で広めていきたいと考えています。もちろん、自治体に対しても粘り強く参加、協力を要請し続ける姿勢も最重要点の1つであることは言うまでもありません。
今後は、YIC-Netを応用し全国に広げていくことが私たちの使命。感染症の情報を発信いただける介護施設や在宅ケアをしている薬局などにもネットワークに参加いただくよう呼びかけるとともに、情報を届けるツールとして、PC・スマホのほか、ケーブルテレビなどマルチチャネルを検討し、感染対策のネットワークの拡大にこれからも取り組んでいきます。
- Introduction -
- 吉田雅喜先生
- 八雲総合病院 副院長/小児科医/ YIC-Netの顧問
「地域の抵抗力の弱い子どもや高齢者を感染症からまもりたい」
その考えを元に、病院で得られる情報や知識を地域に還元するなど、病院と地域の連携を進めるこの活動に尽力している。